(うさぎ)
~第3章~
第76話:不思議だなあ。
『闇うさぎよ。
おぬしも、
からだの傷を治しておくのじゃ。
いよいよ、修行が始まるからの』
♪~
おじいさんが
桃を渡そうとしてるのに、
闇うさぎくんは歌を歌い続けた。
『まあ、良い。
こやつはとりこみ中のようじゃ。
うさぎよ。
先に、おぬしの調整からはじめるじょ』
おじいさんはそう言うと、ボクに息を吹きかけた。
フゥゥ…フゥゥ…フゥゥゥゥゥ…
『今は、心の中が穏やかのようじゃの。
さっきみたいな、
複雑な感情は消えておる。
うさぎよ。
今度は想像してみるのじゃ。
おぬしがまた、
違う言語の生き物と、話したくなった時のことを』
!!
違うことばの生き物と、話したくなった時?
『はじまりの言葉はなんじゃったかのう』
はじまりの言葉…
!!!
胸の中に渦が巻くように、
心臓がドキドキして…
ボクは苦しくなった。
#ドッドッドッドッ
あたまの中が真っ白になった。
フゥゥ…フゥゥ…フゥゥゥゥゥ…
『どうじゃ。
はじまりの言葉は言えそうかの?』
!!
こわいっ こわいっ こわいっ
ボクは、胸が苦しくなって
なにも考えられなくなった
『うさぎよ、
想像してみるのじゃ。
おぬしの耳の中に、
フタができたらどうかの?
フタを閉じたり開けたりしながら、
おぬしの聞きたい声だけ、拾い取る方法じゃ」
耳の中に…フタ??
!!
バッと…
さっきの記憶がよみがえった。
うさぎさん こんにちは 誰か探しているの?
踏まないでって言ってるでしょ 足どけてよ!
お耳が…ボクのお耳がぁぁぁ…事件か?
大丈夫?お腹でも痛いの? 冷えちゃったかしら?
おじいさん!!!ザワザワザワ お耳が痛いの?
助けて…助けてくださいっ… ザワザワ
ザワザワザワ 泣いてるの? どうしたの? 元気出して
踏まないでって言ってるでしょ 足をどけてよ ザワザワ
『どうしたのじゃ、何かあったかの?』
待ってよ お年寄りの方を優先にしたらどうかしら
若い子たちは あとで良いじゃない 体力があるんだから
!!!
ボクは両手で耳をふさいだ。
フゥゥ…フゥゥ…フゥゥゥゥゥ…
耳の中にとびこむザワザワ感…
ボクは恐怖で震えた。
両耳にあてた手を、絶対に離したくなかった。
ボクは首をふった。
!!
おじいさんが、
ボクを抱きしめてくれた。
『頑張ったのう。
もう大丈夫、調べるのは終わりじゃ。
おぬしには、
調整ではなく、
一回願いごとを消して
もう一度最初からやり直した方が良いじゃろう。
おぬしの体に合った願いごとが、必ずあるからの。
それを選べばよいのじゃ』
その時…
いぬくんがやってきた。
『うさぎク~ン
ァゥゥ…大丈夫ゥゥン?』
いぬくんは心配そうに、
ボクの足元に座った。
うん、大丈夫だよ。
怖かったけどもう終わったから…
『なんじゃ?うさぎよ。
おぬし、いぬの言葉が分かるのか?
まわりの言葉は聞こえなくなったのじゃろ??
おぬし!もしや、まだ
終わりの言葉を言っておらぬのか?』
おじいさんが首をひねった。
??!
終わりの言葉?
ボク…言ったっけ??
・・・。
#うーん
#どうだったかなあ
ボクには、思い出せなかった。
でも、本当だ!
いぬくんの言葉は分かるのに、
まわりの声は聞こえない!
#あれっ
#どうしてだろう~
#不思議だなあ
!!
その時、闇うさぎくんの声が聞こえた。
『良いんじゃねえ?!!
こりゃあ、なかなかの傑作だ!!!
!!!
なあ、うさぎくん!!
そう、思わねえか?!!』
おじいさんが言った。
『闇うさぎのやつ、
気がついたようじゃの』
!!
おじいさんはボクのあたまに優しく手をおくと、
いぬくんに言った。
『わしは、
闇うさぎの傷の手当てをするからのう。
しばらく、うさぎをまかせたじょ。
願いごとをどうするか、
うさぎとよく話しておきなさい』