(うさぎ)~第3章~第44話: おかげでボクね、毎日幸せだよ。

短編つぶやき小説

(うさぎ)
~第3章~

44話:おかげでボクね、毎日幸せだよ。


 

おじいさんはテーブルのイスに座り、

ボクを静かに見つめていた。

 

ボクは、ミルクシャーベットを手早くかき混ぜ

ほんの少しだけスプーンに取った。

 

おじいさん!

良かったら、味見してみてください!!

 

おじいさんはスプーンを受け取り、口に入れた。

 

甘さはどうですか?

桃がとっても甘いから、

お砂糖は少なめにしてみたんです。

 

おじいさんは、ゆっくりと何度もうなずいた。

 

#良かった

 

ボクも違うスプーンに取って、食べてみた。

 

#うん

#ちょうどいいな

 

ボクはまた、ミルクシャーベットを冷凍庫にしまった。

 

それからボクは、お鍋をかき混ぜた。

桃ジャムの甘い香りが漂って、

ボクを幸せな気持ちにしてくれた。

 

ボクは幸せだな。

目の前に食べるものがあって

大好きな料理ができるんだもの。

それに、

ボク、料理が好きで良かった。

幸せな時間を、

毎日、何度も楽しめるなんて。

 

心の中で、ボクはかあさんにお礼を言った。

 

かあさん、

ボクに料理を教えてくれてありがとう。

 

ボクね、かあさんと一緒に料理したの

楽しかったんだ。

かあさんが楽しそうに料理していたから、

だからきっと、ボクも好きなんだな。

 

かあさんとよく

近所の動物たちに、作った料理を配りに行っただろ。

美味しくできたから、どうぞって。

 

あれね…

ボク、嬉しかったんだ。

 

みんなもかあさんの料理を、

美味しい、美味しいって喜んでくれて

お礼にお土産までくれて…

 

みんな、ボクに言うんだ。

自慢のかあさんだなって!

 

だからボクも、

かあさんみたいになりたくって

キッチンでいつも

かあさんにくっついてだんだ。

あの時…

料理を教えてもらえて良かったよ。

おかげでボクね、毎日幸せだよ。

 

 

『ばあさんものう…』

 

?!!

いつの間にか、おじいさんがボクの隣にいた。

 

『料理が、すごく好きだったんじゃ』

 

おじいさんは鍋の中をジーッと見つめた。

 

『料理を作っては、近所の動物たちにも分けてやっての。

ばあさんはいつも、動物たちに囲まれておった。

熊なんぞは、食べる量が多いじゃろ?

前にばあさんが、わしの食べる分まであげてしまってのう。

わしも食べたかった…

そう言うとばあさんは、すぐにまた作ってくれるんじゃ。

 

家の前にはいつも

動物たちからのお礼の品が置いてあって

熊なんかは、体が大きいからのう

米俵ごと、担いで持ってきよった。

他にも、誰が持ってきたか分からんが

木の実とか、果物とか、魚とかも

しょっちゅう置いてくれてあった。

せっかく持って来てくれたんだから、

ピンポン押してくれりゃあ良いのにって。

そしたら、誰からもらったのか分かるのにって

ばあさん、気にしてのう。

 

誰からのお礼か分からんが

お返しはちゃんとせんといかんて

ばあさん、また料理して動物たちにお礼をあげにいきよった。

あげてはもらい

もらってはあげてのう…

もう…キリがなくて、それが永久に続くんじゃなかろうかと

わしゃあ、そう思っておったんじゃ』

 

おじいさんは、寂しそうに笑った。

 

!!

 

『おじいさん。良かったら、混ぜますか。

料理するとボク、

いつも元気が出るんです』

 

ボクはおたまを、おじいさんに譲った。

 

おじいさんは、おたまを握った。

 

おじいさん!

料理って、声をかけるとホントに美味しくなるんですよ!

 

#美味しくな〜れ

#美味しくな〜れっ

 

おじいさんは、ボクの声に合わせて

ゆっくりゆっくりかき混ぜた。

 


闇うさぎとの会話≫                           目次                        うさぎ・次のお話しへ≫

タイトルとURLをコピーしました