(うさぎ)
~第3章~
第42話:頭では分かっておるのじゃ。
#ああっ
#どうしようっ
#どうしようっっ
#ぁああっ
#でも落ちつかないと
??!!!
その時…
ボクの身体が宙を浮いた。
『うさぎよ。
わしに、しっかりとつかまっておるのじゃぞ』
おじいさんが、ボクの身体を抱きかかえていた。
?!!!!!
『台所まで!ワープじゃ!』
『加速!!!』
#シュッ
??!!!
#シュッ
#シュッ
おじいさん!
ちょっと待ってくださいっ…桃がまだですっ!!!!
ボク、まだ…
桃を1個しか持ってませんから~ぁぁぁあああっっ!!!!!
#シュッ
#シュッ
#シュッ
『ふぉっふぉっふぉ。
桃なら、何も心配いらん。
大丈夫!
大丈夫じゃからの』
?!!
返事をする間もなく、
あっという間に…
ボク達はキッチンの中にいた。
!!!!!!
おじいさん…
桃が1個しかないんじゃ、
他の桃を保存できないじゃないですかっ!!
ああっ!!!
ボク、
急いで取りに戻らないと…!
!! !!
ボクはおじいさんの手から、抜け出そうとした。
!!
おじいさんは、
ボクをそっと床におろした。
『うさぎよ。
じゃから、大丈夫と言っておるじゃろう。
食べかけの桃なら、
いぬのやつが動物達にあげに行きよった。
闇うさぎも一緒にのう』
?!!
えっ?!
そうだったのっ??!
!!!
じゃあ、
もったいないのはこの桃だけか…!
良かった…
1個だけなら、余裕をもって料理できるな!
ボクは安心した。
!!!!!
おじいさん!
それじゃあ、キッチンをお借りします!
冷蔵庫の中を、
見せてもらっても良いですか??
#使える材料
#なにがあるかなぁ
#ワクワク
ボクの質問に、
おじいさんは頭をかきながら答えた。
『すまんが…
ここの冷蔵庫には、ほとんど何もないのじゃ。
わし、料理は苦手でのう』
おじいさんは、そう言うと
桃を新聞紙で包んで、
冷蔵庫に入れてくれた。
それから、
ボクにイスに座るように言った。
『おぬしと二人で話せる、良い機会じゃ。
大切なことじゃから
今のうちに、ちと話しておこうかの。
これから、
わしらが行く時間旅行についてじゃが…
良いか、うさぎ。
落ちついてよく聞くのじゃ。
おぬしは、
亡くなってしまった大事な家族に会うために、
過去に行きたがっておるがのう。
それは、
嬉しいことでもあるんじゃが、
辛いことでもある。
なぜかと言うとの、
この時間旅行は…
元通りの現在にしか戻れんのじゃ。
たとえ過去で、会いたい人に会って
過去で起きた出来事を変えるとするじゃろ?
おぬしで言えば、
家族が死なぬように行動し、
過去のその場面では
家族の命が助かったとする…
しかしのう、
過去から現在に戻れば、家族は死んだまま…
何も変化がないのじゃ。
わしはのう。
亡くなったばあさんに会いたくて、
今もよく、過去に行っておる。
ばあさんの手料理が、食べたくなってのう。
じゃがのう…
ばあさんは、もうずっと前に亡くなったんじゃ。
今はもう、おらぬ。
わしもちゃんと、頭では分かっておるのじゃ。
わしの現実は、今なのじゃからのう。
それなのに…
わしは今も、冷蔵庫には何も入れておらぬ。
今も過去に行って、ばあさんのところで食べておる…
うさぎよ。
これが、どういうことか分かるか?
わしはのう。
現在に、戻りたくはないんじゃ。
過去に生きていたくなる…
しかしのう。
過去には、過去のわしがおる。
過去のわしは、とても幸せそうでの。
当たり前のような顔して、
ばあさんのご飯を食べておる。
わしは
過去に行っては、現在に戻り…
ばあさんがいない今に、落胆する。
で、また会いたくなって会いに行く…
その繰り返しじゃ。
うさぎよ。
わしが言っておる意味が分かるか?』
おじいさんは、
ボクの目を静かにみつめた。